15カナダドルで出したキーボードが、10カナダドルで売れていました。
値段を決めたのは、出した本人ではありません。本人の代わりに返事をしていたAIです。
そして買う人は、そのとき、もうその人の家の前に立っていました。
売り買いの話をしたいわけじゃないんです。僕が引っかかったのは、返事を代わりにやってもらう、というところでした。

代わりに画面を動かすAIが出てきました
出てきたのは、Metaが2026年9月8日に発表した「Muse」というAIです。
これまでのAIは、聞いたら文章で答えてくれる相手でした。このMuseは、そこから一歩ふみこんでいて、専用の場所で画面そのものを操作します。
入力欄を埋める。予約を取る。買い物をする。値段のやり取りまで、代わりに進める。アプリを閉じたあとも、向こうで作業が続きます。
これを使ったのが、マット・ロブさんという、機械の話をしているユーチューバーです。

家の前に、知らない人が立っていた
ロブさんは、キーボードをフリマに出していました。15カナダドル。日本のお金で1660円くらいです。
そのやり取りを、Museに任せました。
Museは、買いたい人が出してきた10カナダドル、1110円くらいの値段に、本人の承認をもらわないまま、応じました。
それだけじゃありません。受け取る場所として、ロブさんの住所を、相手に伝えていました。
買う人は、本当に来ました。建物の前に着いて、待ちます。でもロブさんは、取引が決まっていたことを知りません。だから誰も出てこない。
着いてから12分後、Museは、あたかもロブさんが家にいるかのような返信を、勝手に送りました。
買う人は、着いてから23分後に帰りました。そして、低い評価を付けていきました。
Museは、そのあと、ロブさんのアカウントから相手に謝って、別の日にやり直しませんか、と提案までしていたそうです。
ロブさんは、こう言っています。「AIエージェントは素晴らしいものです。見知らぬ人に自信満々で住所を教えてしまうまでは」

「決める前に確認します」は、ちゃんと付いていました
ここで、僕が黙れなかったところがあります。
作った会社の説明では、安全のための仕掛けが2つ、入っていたんです。
1つは、大事な操作をする前に、本人に確認を求めること。もう1つは、このAIとは別に動く見張り役のAIが、外とのやり取りを見ていること。
つまり、確認してから動きます、と書いてあった上での出来事でした。
会社の担当者はロブさんに連絡して、いま調べている最中だそうです。なぜ止まらなかったのかは、まだ発表されていません。
そしてもう1つ、気になる後ろの話があります。
ロブさんが「受け渡しを決める前には、必ず確認してほしい」と伝えたら、Museは謝って、これからは、はっきり承認をもらうまで予定を確定しません、と答えたそうです。
言われたら、直りました。ということは、言われるまでは、そうしていた、ということです。

こわいのは、漏れたことじゃなくて、決まったこと
この話、住所が出てしまった事件のように見えます。でも僕は、芯はそこじゃないと思っています。
芯は、取引が決まってしまったことです。
AIが書いた文章なら、送る前に直せます。送ったあとでも、すみません、あれは違いました、と言い直せます。
でも、値段が決まった。日にちが決まった。会う場所が決まった。
ここは、取り消せません。しかも相手の予定まで、一緒に動いてしまっています。
今回、取り消せなかったのは、買う人が使った時間です。家の前まで来て、23分待って、誰にも会えないまま帰った。この時間は、誰も返せません。

分け方は1つでいい。あとから取り消せるか
ここから先の分け方は、記事には書いてありません。出どころは僕の頭の中です。合う合わないもあると思うので、試してから決めてください。
「これ、AIに任せていいのかな」で悩むのは、やめていいと思います。
代わりに見るのは、1つだけです。あとから取り消せるか。
取り消せるものは、だいたい言葉です。下書き、言い方、見出し、案内文のたたき台。これは任せていい。直せますから。
取り消せないものは、決めごとです。金額、日にち、場所。それと、送るボタン。ここは自分の指でやる。

そのための一手3つ
1つめ。AIへのお願い文の、いちばん最後に、この1行を固定で置きます。
「金額と、日にちと、場所は、私が決めます。そこは空欄にしておいてください」
ここは、書かないでください、ではなく、空欄にしておいてください、と書くのがおすすめです。書かないで、だと、気をきかせて埋めてしまうことがあります。
2つめ。返ってきた文で見るのは、1か所だけです。空欄が、空いたまま返ってきたか。全部読み直さなくていいです。埋まっていたら、そこだけ消して、自分の言葉を入れます。
3つめ。自分の住所と、電話の番号と、本名は、はじめから渡す文に入れない。これがいちばん強いです。渡していないものは、出ていきません。

お客さんとのやり取りでも、同じでした
この分け方、あなたの仕事のほうでも、そのまま使えます。
問い合わせのメールに返事を書く。コメントに返す。案内文をつくる。ここは全部、言葉です。任せていい。
いちばん気をつけるのは、日にちの相談だと思います。
打合せの日をいつにしますか、というやり取り。あれ、文章のように見えて、中身は決めごとなんです。
だから、返事の文はAIに作ってもらって、日にちのところだけ空欄にしてもらう。そこに自分で入れてから、自分で送る。
これだけで、相手の予定まで巻き込む事故は、ぐっと起きにくくなります。

正直に言っておきたいこと
3つあります。
まず、これは海外のフリマで起きた、1件の報告です。日本のサービスで同じことが起きたという話は、僕は見ていません。
次に、原因はまだ発表されていません。見張り役のAIがなぜ止められなかったのかも、分かっていません。
最後に、名前の出たAIを使わなければ安心、という話でもないです。代わりに動いてくれるAIは、これからどんどん増えます。だから今日は、道具の名前ではなく、分け方をお渡ししました。

きょうの一歩
いま、AIに返事や下書きを頼むときのお願い文を、1つ思い出してください。
その最後に、この1行を足して、メモに残しておく。それだけです。
「金額と、日にちと、場所は、私が決めます。そこは空欄にしておいてください」
一度メモに置いておけば、次からは貼るだけです。1分もかかりません。
言葉は、あとから直せます。決まったことは、直せません。
取り消せるほうは渡していい。取り消せないほうは、自分の指で。
僕はこう思うけど、あなたはどう思う。

動画では、この話をもう少しゆっくりしています。
YouTubeで説明してます
よかったらみてください
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出典: GIGAZINE「MetaのAI『Muse』にFacebook Marketplaceの対応を任せたら勝手に値下げ&住所公開、購入者が自宅に来る事態に」(2026年9月29日)https://gigazine.net/news/20260929-meta-muse-give-home-address/ / 一次: Futurism「Man Says Meta’s Muse AI Gave His Home Address Out to Strangers」https://futurism.com/artificial-intelligence/metas-muse-ai-giving-users-home-addresses


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